忘れないうちに③です。
土地に賃貸アパートを建てると相続税対策になる?
大手サブリース会社やハウスメーカーの営業手法のうち、大きなものとして、賃貸物件建設による「資産圧縮効果」があります。
相続税を減らす(節税)ために、「課税対象額を減らす」というものです。
具体的には、「土地は、更地で持っているよりも、アパートを建てた方が、評価額が減る」というものです。
相続税の計算をするときに、土地は下記の表を用います。
土地評価額(A)= 路線価 × 補正率 × 土地面積
この土地にアパートを建てると、「貸家建付地」となります。
アパートに住む人に借地権が発生しますので、「その分引いてあげます。」ということです。
貸家建付地の評価額(B)= 上記(A)×(1-借地権割合×借家権割合)
借地権割合が70%の場合は、
1億円 ×(1-70% × 30%)=7,900万円
となり、2,100万円評価減になります。
(※借地権割合は路線価表で決められています。借家権割合は全国共通で30%です。)
また、アパートの建築費が5千万円かかったとして、その評価はどうなるでしょうか。
建物の相続税評価額は、固定資産税評価額に借家権を控除した金額になります。
貸家評価額(C)= 固定資産税評価額 ×(1-×借家権割合)
固定資産税評価額は建築費ではなく、構造や仕様などで決まります。一般に建築費の70%程度といわれています。
5,000万円 × 70% × (1ー30%)= 2,450万円
となり、2,550万円の評価減となります。
かくして、1億円の土地に、5,000万円借金してアパートを建てると、
2,100万円+2,550万円+5,000万円=9,650万円の評価減!
「相続税対策が出来ます!」というシナリオが生まれます。
本当にそうでしょうか?
ここで気をつけなければいけない点は、下記の3点です。
1.土地評価額(A)が正しいか?
計算式の中に補正率というのがありました。
同じ面積の土地でも、角地で使い勝手が良かったり、細長い土地で利用しにくかったり、崖になっていてそのままでは使えなかったりします。
そういう利用価値を反映させるのが補正率です。
その補正率の中で最も大きな影響があるのが「広大地」です。
あんまり広い土地だと、中に道路をつくらないと宅地になりません。
その道路は、そこに住む人たちの生活道路として必要なものではあるものの、財産価値はないので、「その分引いてあげます。」というものです。
500㎡で43.5%減、1,000㎡で45%減、2,000㎡だと50%減です。
貸家建付地よりもずっと大きい評価減です。
広大地評価はいろいろな要件があるので、簡単にはいきませんが、アパートを建てるような土地であれば、可能性は十分にあります。
逆にマンションを建ててしまうと、その後に広大地として評価してもらうのは絶望的になります。
その他にもいろいろな補正があります。
営業マンが、「路線価 × 面積」だけの荒っぽい話をしているをよく聞きます。
大手の営業さん、ちゃんとわかっているのかなぁと心配になります。
2.借金は必要か?
セミナー等に出ると、よく「借金をして」という話が出ますが、手持ちの現金から建築費を払っても、相続税対策の効果は変わりません。(むしろ余計な費用が減ります。)
5,000万円の現金が2,450万円の建物に変わるので、2,550万円の評価減は一緒です。
銀行も本当はわかっているのに、売り上げになるから黙っているのだとか。(聞いた話なので真偽はわかりませんが。)
3.資産は著しく劣化する
そして、私が最も問題と考えているのは、優良な資産を劣化させてしまうということです。
一般に、相続税評価額1億円の更地は、そのままならもっと高い値段で売れます。
不動産譲渡税を支払っても1億円程度は手にすることが出来ると思います。
そもそも税金というのは、そういう風に作られていますので。
ところが、その土地に、アパートが建ってしまうと、そのままではなかなか売れません。
入居者に立ち退いてもらって、建物を解体しないといけないからです。
相当の労力とコストを要します。
投資した資金5,000万円に加えて、立退料、解体費・・・。
その代償は非常に大きいです。
上記の物件を建物ごと売却するしかありませんが、年間の賃料が600万円くらいと考えると、単純利回り10%で売却額6,000万円、6%で1億円です。
うまくいっても5,000万円の借金が残ります。
「その分引いてあげます。」というのは、価値が下がるからにほかなりません。
ベンツは中古車でもそんなに値段が下がりませんが、シャコタンにしたら、やっぱりメチャクチャ下がります。
賃貸経営は、節税ではない
今までうまくやっていた人も沢山います。
みんながみんな、失敗するということではありません。
ただ、営業マンの話を鵜呑みにするのではなく、本当にそうかを、別の視点で考えてから決断する必要があると思います。
上記の3点は、私の周りで実際に起きていることです。
「賃貸経営は節税の視点では考えない」というのが私のスタンスです。
これからの賃貸経営について思うこと④へ →→→ こちら
(※本記事はあくまで私個人の考えです。)